強迫性障害でお悩みの方へ:尽きない不安とこだわりから解放され、自由な生活へ

「電気を消したかな?」「玄関の鍵をかけたかな?」と不安になってしまい、何度も確認してしまう…このような経験はありませんか? たまに確認する程度なら問題はありませんが、どうしても何度確認しても安心できないという症状があれば、それは強迫性障害の可能性があります。
「手が汚い」「手に雑菌がついて落とすことができない」などと思ってしまい、手が荒れるほど何度も繰り返し手を洗ってしまう行為も、強迫性障害の典型的な症状の一つです。
強迫性障害は、自分でも「不合理でつまらない」「不安でやりすぎだ」とわかっていながら、頭から離れない気がかりなこと(強迫観念)にさいなまれ、それを打ち消そうとする行為(強迫行為)を、自分でやめられない病気です。この矛盾に苦しむ方が多く、日常生活に大きな支障をきたします。
世界保健機関(WHO)の報告において、生活上の機能障害を引き起こす10大疾患の一つとされているほど、多くの人がその苦しみを抱えています。しかし、適切な治療によって症状を軽減し、回復できる病気です。一人で抱え込まずに専門家へ相談することが大切です。
「強迫性障害」とは?:不安とこだわりが日常を支配する病気
強迫性障害(Obsessive Compulsive Disorder; OCD)は、自分の意思に反してある考えが頭に浮かんで追い払うことができず(強迫観念)、その強迫観念で生まれた不安を振り払おうと何度も同じ行為を繰り返してしまう(強迫行為)病気です。
強迫性障害になる人は100人に2〜3人程度と言われており、男女比は半々です。平均発症年齢は20歳程度と比較的若年ですが、発症してから受診に至るまでは比較的長く、中年以降で初めて受診するケースも多いのが特徴です。また、うつ病や他の不安障害(パニック障害・社交不安障害など)を併発することも多く見られます。
以前は不安を主症状とする精神疾患である不安障害の一種とされていましたが、不安や恐怖よりも嫌悪感や道徳心と結び付いている症状が多いことから、現在では不安障害から独立した「思考や行動の病気」に分類されています。
強迫性障害のサイン・症状:頭から離れない考えと繰り返される行動
強迫性障害の症状は、主に「強迫観念」と「強迫行為」の2つに分けられます。
強迫観念:不安や苦痛を感じる思考、衝動、イメージが繰り返し浮かぶ
自分でも「不合理だ」「おかしい」とわかっていても、頭から離れない考えやイメージ、衝動のことです。どんなに追い払おうとしても、頭にこびりついて離れず、強い不快感や不安を引き起こします。
強迫行為:観念を解消するため緩和するための行為を繰り返してしまう
強迫観念から生まれた不安を解消したり、一時的に緩和したりするために、繰り返し行われる行動です。自分で「やりすぎ」「無意味」とわかっていても、その行為をせずにはいられません。強迫行為を行うことで一時的に不安が和らぐため、やめられなくなってしまう負の連鎖が生じます。
代表的な強迫観念と強迫行為の例
- 不潔恐怖・洗手強迫(最も頻度の高い症状):
- 強迫観念: 汚れや細菌汚染への強い恐怖。「自分は汚れている、または自分のまわりも汚れている」と感じたりします。
- 強迫行為: ドアノブや手すり、つり革など、不潔に感じて触れない。汚れや汚染の恐怖から過剰に手洗いを行う。手洗いを繰り返しすぎて、手荒れ・肌荒れを起こしたり、長時間洗わないと気が済まなくなったりします。
- 確認行為(最も頻度の高い症状):
- 強迫観念: 戸締まり、鍵の確認。ガスの元栓の締め忘れ、電気の消し忘れなどの不安。
- 強迫行為: 何度も鍵や元栓、スイッチを確認する。繰り返し確認しても不安になるため、出かけるまでに時間がかかり、遅刻を繰り返す。また、外出しても不安になって帰宅してしまう。毎回スマホでスイッチ類の写真を撮って安心を得ようとする人もいます。
- 加害恐怖(最も頻度の高い症状):
- 強迫観念: 「歩行中、人にぶつかってしまったのではないか」「運転中、何かにぶつけてしまったのではないか」など、気づかずに他人に危害を加えてしまったのではないかという不安が、頭から離れない。
- 強迫行為: 他人に何度も確認したり、被害届が出ていないか警察に確認したりする。
- 強迫儀式:
- 強迫観念: 自分なりの順序・方法で物事を進めなければならないというこだわり。
- 強迫行為: 入浴や着替えなど、順序を間違えると最初からやり直さなければならず、時間がかかる。
- 物事へのこだわり(物の配置、対称性など):
- 強迫観念: 家具や小物(リモコンなど)の配置に過剰にこだわる。
- 強迫行為: 曲がっていたり、場所が変わっていたりすると、必ず戻す。
- 不完全恐怖:
- 強迫観念: 自分の行ったことがきちんとできたかどうか、不完全な結果になっていないかが気になる。
- 強迫行為: ゴミが落ちていないか何度も確認する、メールや手紙が届いたか何度も相手に確認する、大切なものを無くしたり、捨てたり、落としたりしていないか何度も確認する。
- 数字のこだわり:
- 強迫観念: 特定の数字にこだわり、不安になったり、不吉なことが起こると感じたりする。縁起担ぎを執拗にこだわる。
強迫性障害が日常生活に与える影響
強迫性障害の症状は、誰もが生活の中で気になること(玄関の鍵の確認や手洗いなど)のほんの延長線上にあるのが一般的です。そのため、「少し神経質なだけ」なのか「行き過ぎか」という判断は非常に難しいところです。しかし、重症化すると自分だけでなく、周りに一種の「こだわり」を押し付けるようになり、社会性が失われてしまいます。
強迫観念や強迫行為によって時間を浪費し、日常生活や社会生活に深刻な支障をきたします。
- 行動面での制約: 強迫観念が浮かび、強迫行為になりやすい場所を避けたり、確認行為に時間がかかり、手続きなどが進められなかったり、時間の約束が守れなかったり、活動そのものをしなくなったりします。社会的にも適応困難となります。
- うつ病など精神疾患の合併: 強迫観念と強迫行為による強いストレスから、うつ病や睡眠障害などのその他の精神疾患を発症したり、アルコールやその他の依存症になる場合もあります。
- 周囲の巻き込みと家族への弊害: 症状を抑えられなくなると、家族や周囲の人に念押しや確認、保証を繰り返し求め、対人関係に支障を来します。公衆の場での確認行為に基づく言動が奇異な行動と捉えられ、社会的に問題となることもあります。患者自身は家族に自分の強迫観念を理解されないことから、不安や怒りを感じ、家族関係が悪化することもあります。また、対応に苦慮した家族がうつ病になることもあり、注意が必要です。
強迫性障害は、重症化してしまうと治療による改善が難しくなり、自殺の可能性も高まってしまうと報告されています。強迫観念や強迫行為で「日常生活・社会生活に影響が出ている」、「家族や周囲の人が困っている」といったサインがある場合には、早期に治療を開始することが推奨されます。
強迫性障害はどのような人がなりやすい?
強迫性障害は、真面目で几帳面な人、完璧主義で曖昧さが許容できない人がなりやすいと言われています。しかし、国内では100万人以上の患者がいると言われており、決して稀な病気ではありません。
強迫性障害の原因:特定されていないが、神経・環境要因が関与
強迫性障害の原因や発症に関しては、はっきりとした原因は特定されていません。しかし、神経学的な要因や環境要因が関わっているのではないかと研究が進められています。
- 神経要因: 脳内伝達物質であるセロトニンの不足が関わっている可能性が指摘されていますが、明確には解明されていません。強迫性障害は何らかの脳機能障害と考えられ、幼少期や思春期に強迫性障害を発症した場合は、発達障害などの合併もあり遺伝的な要因が強いと考えられます。
- 環境要因: ストレスや環境の変化などが関わっていることが多いと言われています。女性の場合は、月経前や出産後に生じやすいと言われています。さらに、強烈なトラウマになるような出来事を経験したあとも発症しやすいことが報告されています。
強迫性障害は心配性や潔癖症と違う?:診断のポイントは「支障の有無」
「心配しがちな性格」や「潔癖な人」だとしても、家庭生活や仕事で問題がなければ(自分なりに不安に対処できているのであれば)、病気である強迫性障害とは考えられません。
ただし、日常生活を送る上で、あるいは社会的に問題が起こるのであれば、それは治療が必要な病気である強迫性障害の可能性があると言えるでしょう。(例:遅刻を繰り返す、常に手荒れ・あかぎれがある、外出が不安で引きこもるなど)
どのタイミングで受診すべき?
強迫性障害は、どのタイミングで受診すべきか、自分自身では判断しにくいことも多いのがこの病気の特徴です。家族や友人から指摘されて受診に至るケースも多くあります。
もし「バカバカしいと思っていても、繰り返してしまう」「(強迫行為を)やめたいのに、やめられない」など、矛盾を感じて苦しんでいるのであれば、一度受診を検討するべきでしょう。
強迫性障害の診断・重症度評価
強迫性障害は、一般的な病気のように血液検査や画像検査で異常が見られません。そのため、症状の程度、日常生活の困難さなど、さまざまな状況を総合的に判断して診断が下されます。
アメリカ精神医学会の最新の診断基準(DSM-5)では、主に以下の4つの項目で強迫性障害と診断します。
- 強迫観念または強迫行為、もしくはその両方が存在する。
- 強迫観念や強迫行為のために時間を浪費し、社会生活や日常生活に支障をきたしている。
- 強迫観念や強迫行為は、薬物やアルコールなどの乱用・その他の病気が原因ではない。
- 他の精神障害(全般性不安障害・統合失調症など)の診断に適さず、強迫性障害の症状に最もよく当てはまる。
また、重症度評価については「エールブラウン強迫観念・強迫行為評価尺度(YBOCS)」というものを用いて評価します。具体的には、強迫観念と強迫行為について、どれだけ時間を費やしてしまうか、社会活動・仕事(学業・家事)への支障の程度、苦痛の度合い、症状にどのぐらい抵抗しようとしているか、症状をどのぐらいコントロールできるかについてそれぞれ0-4点の5段階で評価します。
合計40点満点の点数で重症度を判断し、以下のような目安となります。
- 0-7点: 病気ではない
- 8-15点: 軽度(必ずしも日常生活や社会参加に支障をきたすほどではないが、他人より作業にいくらか時間がかかってしまうことがある)
- 16-23点: 中等度(社会生活に支障をきたし、苦痛がある。独力では症状のコントロールが難しい)
- 24-31点: 重症(重大な生活機能の障害を引き起こし、他者からの援助が必要。通勤、通学、日常生活が非常につらい)
- 32-40点: 極症(生活の大半が症状に費やされ、周囲の人の多大な援助が必要となる。引きこもり状態の人が多い)
重症度評価は初診時の評価に重要なだけでなく、治療の効果判定にも使われます。
強迫性障害の治療:薬物療法と精神療法を組み合わせて
強迫性障害の治療は、精神療法と薬物療法を組み合わせて行います。
強迫性障害の方は、不合理な不安や考えであるとご自身も自覚されている方が多く、そのため周囲の誰にも症状の相談をできずに、抱え込んで落ち込んでしまう傾向にあります。そのために、強い不安や抑うつ症状から、うつ病や不眠などを併発していることも少なくありません。
まずは薬物療法を用い、抑うつ・不安症状の改善に努めます。そして、強迫性障害の中心的な「強迫観念」と「強迫行為」の強固なサイクルの見直しと改善のために精神療法を行うことが望ましいとされています。
1. 精神療法(曝露反応妨害法が中心)
精神療法では、曝露反応妨害法が代表的です。これは、強迫観念による不安に立ち向かい、強迫行為をしないで我慢するという課題を繰り返すことで、強迫行為をしなくてもよくなっていくことを目標とする行動療法です。
例えば、汚いと思うものを触って手を洗わないで我慢する、留守宅が心配でも鍵をかけて外出し、施錠を確認するために戻らないで我慢するといった課題を繰り返します。
こうした課題を不安度の低い強迫行為から続けていくことにより、ご自身の不安感情が制御可能な範囲になることを自覚してもらい、強い不安も徐々に弱まってゆき、やがて強迫行為をしなくてもよくなっていくという流れです。
強迫性障害の人は、恐怖の対象となる刺激に遭遇することで強迫観念が呼び起こされ、それを打ち消そうと強迫行為を繰り返しますが、強迫行為をしても強迫観念が消えるほどの効果は持ちません。一時的に安心感を味わうために、強迫行為を行ってしまうものの、安心感はすぐ薄れていくので強迫行為を延々と何度も行ってしまいます。曝露反応妨害法は、この負の連鎖を断ち切るための治療法であり、大きな効果を持つことが実証されています。
もちろん、不安度の高い強迫行為に対して突然このような療法を急に行うと、反対にパニック発作などを誘発する恐れがあるため、無理に療法を行うのではなく、あくまでも「一つ一つの成功を着実に重ねていく」という点が重要です。
また、強迫観念が主である人の場合、自然に思い浮かぶ嫌な考え(侵入思考)を打ち消すような考えを頭の中で繰り返すことが「頭の中の強迫行為」だと考えることができます。治療としては、侵入思考に反応した考えを妨害し、不快な思考にさらすという「思考行動」を、不安が弱くなってくるまで繰り返します。そして不安を抱えつつも他の行動をするように努めるというパターンを行います。
2. 薬物療法
強迫性障害に対する薬物療法は、「精神療法を進めるためにまず気持ちを落ち着けること」「強迫観念による不安を少しでも薄れさせること」を目的とします。
- 主な薬剤: セロトニンの働きを強める抗うつ剤、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が基本となります。SSRIは、強迫性障害の原因の一つと考えられている脳内のセロトニン系の異常を調整する働きを持ちます。うつ病にも効果を発揮しますが、脳内セロトニンの濃度を減らさないように作用することで強迫行為への衝動を和らげる効果もあります。
- 服薬期間と量: 強迫性障害は、うつ病の場合よりも高用量で長期間の服薬が必要となることが多いですが、不安にならず決まった用量を定期的に内服することが重要です。
- その他の薬剤: SNRI(セロトニン-ノルエピネフリン再取り込み阻害薬)や、クロミプラミン(三環系抗うつ薬)が治療薬として使用されることもあります。クロミプラミンは強迫性障害の症状を和らげる効果が立証されていますが、口渇・便秘・眠気・ふらつきなどの副作用が強いため、注意が必要です。SSRIで効果がなかなか得られない場合に使用することがあります。
これらのお薬で強迫性障害の状態を安定させた上で、認知行動療法を行なうのが一般的です。
ただし強迫性障害の治療の前提として、患者自身が治そうという意思を持っていることが大切です。治療する意志を維持するための心理的介入も必要となることがありますが、治療する意志を維持することで積極的に治療を行うと、良好な治療結果が得られやすくなります。
強迫性障害の治療開始後・再発予防に向けて
治療を始めた後も、自分のために自分で治そうと継続して思うことが大切です。薬物も自己中断せず、決められた用量を決められた通りに服薬するよう心がけて下さい。また強迫性障害には、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら改善していくという特性があるため、一喜一憂せず、受診・治療を地道に継続することが必要です。
また、この病気は引きこもりや生活リズムが乱れると悪化するため、規則正しい生活や睡眠、外出を心がけ、学校や仕事などの社会的関わりは、可能な限り継続することをお勧めします。病気から「逃げない、繰り返さない」という行動・正しい生活習慣がしっかりと身につけば、病気は良くなっていきますし、再発率も非常に低くなります。
尽きない不安とこだわりから解放され、自由な生活へ
強迫性障害は、自分ではコントロールできない強い不安とこだわりのために、日常生活が制限されてしまう病気です。しかし、適切な治療と専門家のサポートがあれば、その苦しみから解放され、自分らしい自由な生活を取り戻すことが十分に可能です。思い当たることがある場合には、一人で抱え込まず専門機関に相談してみましょう。
当カウンセリングルームでは、現役の看護師であり公認心理師である私が、メンタルクリニックや医師とは異なる立場から、あなたの心の状態に寄り添い、認知行動療法によるカウンセリングを通して、強迫観念や強迫行為のメカニズムを理解し、それに対する「考え方の癖」や行動パターンを見つめ直し、具体的な対処法や曝露反応妨害法といったスキルを身につけるお手伝いをさせていただきます。主治医による薬物療法と並行して、ご自身で不安をコントロールし、こだわりから解放され、あなたらしい自由な生活を取り戻すためのサポートをいたします。
どうぞ、お気軽にご相談ください。