コラム

統合失調症でお悩みの方へ:現実とのつながりを取り戻し、自分らしい生活へ

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「現実と区別がつかない声が聞こえる…」「誰かに監視されているような気がする…」「考えがまとまらず、うまく話せない…」「以前はできたことが、なぜかできなくなった…」

もしあなたがこのような、現実とのつながりの喪失、幻覚、妄想、異常な思考や行動、感情表現の減少、意欲の低下、精神機能(認知機能)の低下といった症状に悩まされているとしたら、それは統合失調症かもしれません。

統合失調症は、自立した生活を確立していく年代の若年者に発症するのが典型的で、日常生活への支障とそれに伴う偏見が生涯続く可能性があります。患者の人生に及ぼす影響と経済的な損失からみて、人類を苦しめている最も困難な病気の一つとされています。

しかし、統合失調症は、適切な治療によって症状を軽減し、現実とのつながりを取り戻し、自分らしい生活を送ることが十分に可能です。早期発見と早期治療が、長期的な機能改善に大きく影響します。一人で抱え込まず、どうぞお気軽にご相談ください。


「統合失調症」とは?:こころや考えがまとまりづらくなる病気

統合失調症は、脳のさまざまな働きをまとめることが難しくなるために、幻覚や妄想などの症状が起こる病気です。そのため気分や行動、人間関係などに影響が出てきます。ほかの慢性の病気と同じように長い経過をたどりやすいですが、新しい薬や治療法の開発が進んだことにより、多くの患者さんが長期的な回復を期待できるようになっています。

統合失調症には、健康なときにはなかった状態が表れる陽性症状と、健康なときにあったものが失われる陰性症状があります。

どのくらいの人がなるの?

統合失調症は世界の人口の約1%にみられ、発生率に男女差はありません。日本での統合失調症の患者数は約80万人と言われています。100人に1人弱という数字は、決して少なくありません。それだけ、統合失調症は身近な病気といえます。

統合失調症は、アルツハイマー病や多発性硬化症より多くみられる病気です。

発症時期の特定が難しい場合が多いですが、平均発症年齢は男性で20代前半から半ば、女性ではそれよりやや後の年齢です。小児期に発症するのはまれですが、青年期に多くなり、高齢ではまれになります。

発症の原因は?

統合失調症の正確な原因は不明ですが、最新の研究では、遺伝的な要因と環境的な要因が組み合わさって発症することが示唆されています。根本的には(脳の分子生物学的変化や機能的変化が関係する)生物学的な問題であると考えられていますが、生活上の大きなストレスや物質使用といった特定の外的要因が引き金になる可能性があります。

統合失調症を発症しやすくなる要因としては、以下のものがあります。

  • 遺伝的な素因: 一般の人々での発生リスクが1%であるのに対し、統合失調症の親や兄弟姉妹をもつ人では、発生リスクが約10%となります。一卵性双生児の1人が統合失調症の場合、もう1人の発生リスクは約50%になります。
  • 出産前後や分娩中の問題: 妊娠中期(第2トリメスター)の母親のインフルエンザ感染、分娩中の酸素欠乏、低体重での出生、母体と乳児の血液型不適合など。
  • 脳の感染症
  • 10代前半での大麻使用

統合失調症の症状:3つの主要なカテゴリー

統合失調症は、突然発症する場合もあれば、数日から数週間、また何年もかけて徐々に発症していく場合もあります。症状の重症度と種類は患者さんごとに異なりますが、通常は仕事、対人関係、身の回りの管理に関する能力に支障をきたすほどの重い症状が現れます。

初期には軽い症状(前駆症状)がみられることもあります。引きこもり、支離滅裂、疑い深いなどの印象があるだけの場合もあり、後になって初めてそれが統合失調症の始まりだったと判明することもあります。

統合失調症の症状は、大きく「陽性症状」「陰性症状」「認知機能障害」の3つに分けることができます。

  1. 陽性症状(健康なときにはなかった状態が表れる): 正常な精神機能に歪みが生じる症状です。
    • 妄想: 実際にはないことを強く確信すること。通常は知覚や体験の誤った解釈を伴う誤った思い込みで、明らかに矛盾する証拠があってもその思い込みを捨てようとしません。
      • 例:困らされている、後をつけられている、だまされている、見張られているなどの被害妄想。本、新聞、歌詞などの一節が明確に自分に向けられていると思い込む関係妄想。他者に自分の心が読まれている、自分の思考が人に伝わっている、外部の力によって思考や衝動が自分の中に吹き込まれているなどと思い込む思考奪取思考吹入
      • 奇妙な妄想(誰かに傷跡を残さずに内臓を抜き取られたなど)もあれば、そうでない妄想(後をつけられているなど)もあります。
    • 幻覚: 他の誰も経験しないものを聞いたり、見たり、味わったり、身体的に感じたりすること。圧倒的に多いのは幻聴で、周りに誰もいないのに命令する声や悪口が聞こえたり、自分の行動に関して意見を述べたり、互いに会話したり、批判的、侮辱的なことを言う声が頭の中で聞こえたりすることがあります。ないはずのものが見える幻視も生じることがあります。
    • 思考障害: 思考が混乱し、考え方に一貫性がなくなること。話にとりとめがなく、話題が次々に変わることで明らかになります。話す内容が多少混乱している程度の場合もあれば、完全に支離滅裂で理解できない場合もあります。
    • 奇異な行動や不適切な行動: 子どもじみた行為、興奮、不適切な外見、不衛生、不適切な行為などの形で現れます。その極端な形態の1つが緊張病という状態で、硬直した姿勢を崩さず、周囲の人が体を動かそうとすると強く抵抗したり、対照的に無作為に動き回ったりします。
  2. 陰性症状(健康なときにあったものが失われる): 感情的または社会的な機能が低下したり、失われたりする症状です。
    • 感情の平板化(感情鈍麻): 喜怒哀楽の表現が乏しくなり、他者の感情表現に共感することも少なくなる。顔の表情から動きがなくなり、人と目を合わさなくなる。本来なら笑ったり泣いたりするような出来事があっても、何の反応も示しません。
    • 思考の貧困(発話が乏しくなる): 言葉数が少なくなり、質問に対する返答が1語か2語と短く、心の中が空虚な印象を与える。会話で比喩などの抽象的な言い回しが使えなかったり、理解できなかったりする。
    • 意欲の欠如: 自発的に何かを行おうとする意欲がなくなってしまう。また、いったん始めた行動を続けるのが難しくなる。全般的な目的意識の欠如、目標の喪失を伴います。
    • 自閉(社会的引きこもり): 自分の世界に閉じこもり、他者とのコミュニケーションをとらなくなる。人づきあいを避けて、引きこもるようになる。何もせずにゴロゴロしている、身なりにまったくかまわなくなり、入浴もしない、といった行動が見られます。
  3. 認知機能障害(集中力、記憶力、判断力などの低下):
    • 記憶力の低下: 物事を覚えるのに時間がかかるようになる。
    • 注意・集中力の低下: 目の前の仕事や勉強に集中したり、考えをまとめたりすることができなくなる。本が読めなかったり、映画やテレビ番組の話の筋が追えなかったり、指示通りに物事ができなかったりします。
    • 判断力の低下: 物事に優先順位をつけてやるべきことを判断したり、計画を立てたりすることができなくなる。社会生活における問題解決能力が低下します。

統合失調症患者における全般的日常生活障害の程度は、大部分が認知障害の重症度によって決まります。多くの患者さんは職についておらず、家族や他者との接触はまったくないか、ほとんどありません。

ストレスになるライフイベント(失業や失恋など)やマリファナなどの薬物使用が、症状の発現や悪化の引き金になることがあります。


周囲の人が気づく統合失調症のサイン

統合失調症に多い幻覚や妄想の症状は、本人には現実味があってそれが病的な症状だとは気づきにくいものです。周りの人が気づくことが、早期発見の第一歩となります。家族や周囲の方に以下のようなサインがあることに気づいた時には、相談窓口などに相談してみてください。

  • 幻覚や妄想のサイン:
    • いつも不安そうで、緊張している。
    • 悪口を言われた、いじめを受けたと訴えるが、現実には何も起きていない。
    • 監視や盗聴を受けていると言うので調べたが、何も見つけられない。
    • ぶつぶつと独り言を言っている。
    • にやにや笑うことが多い。
    • 命令する声が聞こえると言う。
  • そのほかのサイン:
    • 会話や行動の障害: 話にまとまりがなく、何が言いたいのかわからない・相手の話の内容がつかめない。
    • 意欲の障害: 打ち込んできた趣味、楽しみにしていたことに興味を示さなくなった。
    • 感情の障害: 感情の動きが少なくなる、他人の感情や表情についての理解が苦手になる。

統合失調症の経過と予後:気長な病気との付き合い方が大切

統合失調症は生涯続くことがあり、ほとんどの場合、生涯を通じて心理社会的機能が低下します。社会的機能の低下は、物質使用症、貧困、路上生活の原因にもなり得ます。治療を受けない統合失調症患者が家族や友人との接触を失って、大都市で路上生活を送っている場合もよくあります。

自殺のリスク

統合失調症患者の約5〜6%が自殺し、約20%が自殺を試み、さらに多くの患者が自殺を真剣に考えます。自殺は統合失調症患者における若年死の主因であり、統合失調症患者の平均余命が一般の人より10年短いことの主な理由の1つです。

自殺のリスクが高いのは、若い男性(特に物質使用症を併発している場合)、抑うつ症状や絶望感を抱えている人、失業している人、精神症状が現れたばかりの人、または病院から退院したばかりの人です。

暴力のリスク

世間一般の認識に反して、統合失調症患者が暴力行動を示すリスクはわずかに高くなるだけです。重度の抑うつ状態にあり、孤立し、妄想を抱いているごく少数の患者では、自らの苦しみの唯一の原因とみなしている人を攻撃することがあります。

暴力行為を働く可能性が高い人の特徴として、アルコールやレクリエーショナルドラッグを使用している、迫害されているという妄想を抱いている、暴力行為を命令する幻覚がある、処方された薬を服用していない、といったものがあります。

予後(経過の見通し)

統合失調症の予後は様々ですが、おおむね以下のようになっています。

  • 3分の1の患者では、長期間持続する大きな改善がみられます。
  • 3分の1の患者では、いくらかの改善がみられますが、たびたび再発を繰り返し、後遺症が残ります。
  • 3分の1の患者では、重度かつ永続的な無能力の状態に陥ります。

統合失調症を発症する前と同じように日常生活を送れるようになる人は、統合失調症患者全体の約15%だけです。

予後が良好になる要因としては、症状の突然の出現、高齢での発症、発症前の能力や業績が高い、認知障害が軽度、いくつかの陰性症状しかみられない、最初の精神症エピソードから治療開始までの期間が短い、といったものがあります。

予後が不良になる要因としては、低年齢での発症、発症前の社会的状況や仕事での役割の遂行に問題がある、統合失調症の家族歴がある、陰性症状が多くみられる、最初の精神症エピソードから治療開始までの期間が長い、といったものがあります。男性は女性より予後が悪いです。

早期発見と早期治療が、統合失調症の管理の指針です。治療の開始が早いほど、治療の結果はよくなります。


統合失調症の診断:決め手となる検査はない

統合失調症の診断に決め手となる検査はありません。診断は、病歴と症状の総合的な評価に基づいて下されます。

以下の条件の両方に該当する場合、統合失調症と診断されます。

  • 特徴的な症状(妄想、幻覚、支離滅裂な発言、支離滅裂な行動、陰性症状)のうち2つ以上が6カ月以上続いている。
  • それらの症状のために仕事面、学業面、または社会的な機能が著しく悪化している。

家族、友人、教師などからの情報が、しばしば発症時期を特定するのに重要となります。

他の病気の除外

臨床検査を行って、精神症状を引き起こす可能性のある、物質使用症の有無や内科疾患、神経疾患、内分泌系の病気などが基礎にないかどうかを調べます。そのような病気の例として、脳腫瘍、側頭葉てんかん、甲状腺疾患、自己免疫疾患、ハンチントン病、肝疾患、薬の副作用、ビタミン欠乏症などがあります。物質使用症を調べる検査を行う場合もあります。

脳腫瘍の可能性を否定するために、CT検査やMRI検査など、脳の画像検査を行うこともあります。統合失調症の人の脳には、CTまたはMRI検査で検出できる異常が生じていることがありますが、その異常は、統合失調症の診断に役立つほど特徴的なものではありません。

さらに医師は、統合失調症と共通する特徴がある他のいくつかの精神疾患(短期精神症、統合失調様症、統合失調感情症、統合失調型パーソナリティ症など)の可能性を否定することを試みます。


統合失調症の治療と回復への支援:包括的なアプローチ

統合失調症の治療は、早期発見と早期治療が重要です。治療の開始が早いほど、治療の結果はよくなります。一般に、統合失調症の治療では以下を目標とします。

  • 精神病症状を軽減する。
  • 症状の再発とそれに伴う日常生活機能の低下を予防する。
  • 日常生活機能をできるだけ高い水準で維持できるように患者を支援する。

抗精神病薬、リハビリテーションプログラム、地域支援活動、そして精神療法が治療の中心になります。

薬物療法(抗精神病薬)

妄想、幻覚、支離滅裂な思考などの精神症状を軽減または消失させるのには、抗精神病薬が有効です。急性の症状が治まってからは、抗精神病薬を継続的に使用することで、再発の可能性をかなり抑えることができます。

  • 新しい(第2世代)抗精神病薬: 従来型(第1世代)抗精神病薬よりも筋肉のこわばり、振戦(ふるえ)、遅発性ジスキネジア(不随意運動)を引き起こす可能性が低く、最もよく処方されています。
  • 副作用: 眠気、筋肉のこわばり、振戦(ふるえ)、不随意運動、体重増加、不穏(落ち着かなくなる)など、重大な副作用があります。
  • 服薬の遵守: 薬物療法を行わない場合、70〜80%の患者で診断から1年以内に症状が再発します。薬を継続的に服用すれば、再発率は約30%に下がります。しかし、統合失調症の人の半数が処方された薬を服用しません。自分が病気であるという認識がないため服薬を拒む人や、不快な副作用が原因で服薬を中止してしまう人もいます。記憶の問題、解体症状、あるいは単に経済的理由から薬の服用をやめてしまうケースもあります。服薬の妨げとなっている問題を取り除くことで、患者が薬物療法の指示に従う可能性が高まります。

リハビリテーションプログラムと地域支援活動

職場訓練などのリハビリテーションと支援プログラムは、医療施設内ではなく、社会の中で患者さんが生きていくために必要な技能を教えることを目的として行われます。それらの技能が身につけば、統合失調症の人も仕事、買い物、身の回りの管理、家事などができるようになり、人間関係も改善されます。

地域支援サービスでは、統合失調症の人ができる限り自力で生活できるようにするためのサービスが提供されます。このようなサービスとしては、スタッフが常駐して患者が薬を処方通り服用しているか確認したり、金銭面で支援を行ったりすることのできる、監督者付きの共同住宅やグループホームがあります。あるいは、スタッフが患者の自宅を定期的に訪問する場合もあります。

重度の再発を起こした場合は入院が必要になり、特に自傷・他害行為のおそれがあれば強制入院になることもあります。しかし、一般的な目標は患者さんを社会復帰させることです。

精神療法(心理療法)

一般に、精神療法で統合失調症の症状が軽減することはありません。しかし、精神療法は統合失調症患者と家族と医師の間に協力関係を築く上で役に立つ可能性があります。こうした関係の中で、患者は自分の病気のことを理解して対処し、処方通りに抗精神病薬を服用し、病状を悪化させる可能性があるストレスに対処する方法を学びます。医師と患者の間に良好な関係が築けるかどうかが、しばしば治療成功の鍵となります。

統合失調症の人が家族と一緒に生活する場合は、本人とその家族を対象として心理教育が勧められることがあります。これは、本人とその家族に、この病気に関する情報や病気に対する対処方法(例えば、対処技能を指導することなど)に関する情報を提供するための訓練です。この訓練は再発の予防に役立ちます。


現実とのつながりを取り戻し、自分らしい生活へ

統合失調症は、こころや考えがまとまりづらくなるという困難を伴う病気です。しかし、早期の発見と、薬物療法を基本とした多角的な治療とサポートを受けることで、症状をコントロールし、自分らしい生活を取り戻すことが十分に可能です。

当カウンセリングルームでは、現役の看護師であり公認心理師である私が、メンタルクリニックや医師とは異なる立場から、あなたの心の状態に寄り添い、統合失調症の症状や治療に関する心理教育、病状を悪化させる可能性のあるストレスへの対処法、そして日常生活機能の維持・向上に向けた具体的な支援を、認知行動療法のアプローチを取り入れながら提供させていただきます。主治医による診断・薬物療法と並行して、ご自身で病気と向き合い、現実とのつながりを再構築し、あなたらしい生活を送るためのサポートをいたします。

一人で抱え込まず、どうぞお気軽にご相談ください。

ABOUT ME
さおちる
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ナース
はじめまして。 現役ナースで、公認心理師の「さおちる」です。 誰にも言えない「こころの不調」を、一人で抱えていませんか? 私は12年間、看護師としてたくさんの心と体に向き合ってきました。 その経験から確信していることがあります。 それは、精神科は「こわい場所」ではなく「成長が詰まった環境」だということ。 そして、お薬を飲む前に「カウンセリングで自分と向き合う時間」が、回復への大きな力になるということです。 こころの不調は、誰にでも起こりうること。特別なことではありません。 このサイトでは、看護師と公認心理師、2つの視点から、あなたの「立ち直る力」を引き出すお手伝いをします。 認知行動療法をベースに、具体的な予防法やケアのヒントをお伝えしていきます。 もう一人で悩まないでください。 ここが、あなたの心を軽くする、最初のステップになることを願っています。
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