精神科の現場では、患者さんの状態を「なんとなくいつもと違う」「不穏な感じがする」といった主観的な感覚で捉えてしまい、言葉にするのが難しいことがあります。
身体科では数値や画像データに基づいたフィジカルアセスメントを行いますが、精神科においてそれらに代わる客観的な証拠となるのは、私たち看護師による「記録」です。 患者さんの言動を正確に観察し、共通の枠組みでアセスメントする技術こそが、精神科看護の専門性の向上につながります。
そこで活用したいのが、MSE(Mental Status Examination:精神状態アセスメント)という手法です。
MSEとは何か
MSEは、ある時点での患者さんの精神状態を包括的に評価するための構造化された方法です。
- 狭義のMSE: 意識、記憶、感情、思考など、その瞬間の精神機能の状態を観察し、記述すること。
- 広義のMSE: 精神症状だけでなく、心理的反応、セルフケア(暮らし)、病歴、薬物療法を相互に関連付けて、リカバリーに向けた判断を行うこと。
MSEを構成する5つの視点
MSEでは、患者さんの全体像を以下の5つのカテゴリーに分けて捉えます。
- 精神症状(9項目): 外観、意識、感情、思考、知覚などの状態。
- 心理的反応(9項目): 欲求、障害受容、リカバリー、パーソナリティなど。
- セルフケア(6項目): 排泄、個人衛生、活動と休息、安全の維持など。
- 薬物療法(2項目): 薬の効果や副作用、体内での動き(薬物動態)。
- 精神医学的病歴(7項目): 現病歴、既往歴、生活歴、住環境など。
精神症状アセスメントの9つのポイント
特に重要な「精神症状」の観察では、以下の項目に沿って整理します。
- 外観: 表情、身だしなみ、姿勢、行動の様子。
- 意識: 意識障害やせん妄の有無。
- 記憶: 物覚えや見当識(時間・場所・人の認識)。
- 認知: 注意力や、対人場面での認識(社会認知)。
- 感情: 抑うつ、感情鈍麻、イライラなどの程度。
- 意欲: 行動の発動性(興奮、無為自閉、意欲減退)。
- 思考: 話のテンポ(思考制止)や、内容(妄想など)。
- 知覚: 幻聴や幻視などの幻覚、または錯覚。
- 自我: 「自分は自分である」という感覚の障害(離人症など)。
具体的なアセスメントの記述例
MSEの項目を意識することで、患者さんの「今」の状態をより具体的にイメージしやすく伝えることができます。
例1:Cさん(30代女性)
- 外観・思考: 身だしなみは整っているが、視線が合わず、問いかけに対して「はい」や「いいえ」以外の言葉がほとんど聞かれない(思考の貧困)。
- 意欲・感情: 日中もベッド上で横になっていることが多く、周囲への関心や感情の変化が乏しい(意欲減退・感情鈍麻)。
例2:Dさん(50代男性)
- 知覚・思考: 「隣のベッドの人が自分の悪口を言っている」と話し(幻聴・被害妄想)、不安そうな表情で周囲を頻繁に警戒している(外観・感情)。
- 心理的反応・セルフケア: 自身の状態に困っている様子はなく(病識の欠如)、夜間も興奮して落ち着かず、十分な休息がとれていない(心理的反応・活動と休息)。
まとめ:強みに着目した看護へ
MSEを用いる利点は、症状がある部分だけでなく、「症状が出ていない安定した部分(強み・ストレングス)」を評価できる点にあります。 これにより、患者さんの力を活かした、より具体的で効果的な看護計画を立てることが可能になります。
精神科看護の専門性を突き詰め、患者さんのリカバリーを支えるために、このMSEの枠組みを日々の実践に取り入れていきましょう。
文献 :他科に誇れる精神科看護の専門技術 メンタルステータスイグザミネーション Vol.1(精神看護出版 武藤教志著)
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はじめまして。 現役ナースで、公認心理師の「さおちる」です。
誰にも言えない「こころの不調」を、一人で抱えていませんか?
私は12年間、看護師としてたくさんの心と体に向き合ってきました。
お薬を飲む前に「カウンセリングで自分と向き合う時間」が、回復への大きな力になります。
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