コラム

「新世代の認知行動療法」ACTを徹底解説!仕事・人生のウェルビーイングを高める「心理的柔軟性」とは

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ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)とは?不安とうまく付き合い、自分らしく行動する6つのステップ

💡 はじめに:「不安をなくす」ことを諦めると、心がラクになる

「どうせ上手くいかない」「また失敗するかも」…そんな思考に囚われて、本当にやりたい行動を諦めてしまう経験はありませんか?

従来の心理療法やセルフケアでは、ネガティブな感情や思考を「変えよう」「なくそう」とすることが重視されてきました。しかし、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)は、その常識を覆します。

ACTは、不安や苦しみを「あるがまま」受け入れつつ、自分が大切にしたい価値に基づいて行動することで、人生を豊かにする「新世代の認知行動療法」です。欧米のIT企業で導入されているマインドフルネスの要素も含み、ストレス対処法や人材育成など、幅広い分野で注目されています。

本記事では、ACTの基本的な考え方から、日常で実践できる「心理的柔軟性」を高める6つのステップまでをわかりやすく解説します。

ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)とは何か?

📌 ACTの基本概念

ACT(Acceptance and Commitment Therapy)は、「アクセプタンス(受け入れ)」と「コミットメント(行動)」を柱とする心理療法です。

用語意味ACTで目指すこと
アクセプタンス (Acceptance)思考や感情をコントロールしようとせず、あるがままに受け入れること。「そのままにしておく」姿勢。苦痛を回避しようとするエネルギーを解放する。
コミットメント (Commitment)自分にとって本当に大切にしたい価値に向かって、行動パターンを作り上げること。価値に基づいた有意義な人生を歩む。

ACTでは、ネガティブな感情や思考は、無理になくそうとするほどかえって強くなると考えます。この「コントロール方略が機能しないことに気づくこと」を**「創造的絶望」**と呼びます。そして、そこで生まれたエネルギーを、自分の価値に基づいた行動(コミットされた行為)に振り向けます。

従来の認知行動療法との決定的な違い

ACTは認知行動療法の一種ですが、最も大きな違いは「思考や感情の扱い方」です。

  • 認知行動療法(CBT): ネガティブな思考を修正・変容することを目指す(例:「70点しか取れなかった」→「70点も取れた!」)。
  • ACT: ネガティブな思考をそのままにしておき、その思考との関わり方を変える(例:「70点しか取れなかった」という思考があっても、価値に基づき勉強を続ける)。

ACTでは、不安や苦痛がゼロにならなくても、人生を豊かにする方向に向かえていれば良いと考えます。


ACTで目指す「心理的柔軟性」とは?

ACTが目的とするのは、「心理的柔軟性(Psychological Flexibility)」を高めることです。

🔑 心理的柔軟性(ヘキサフレックス)の定義

心理的柔軟性とは、自分の思考や感情にとらわれることなく、「今、この瞬間」に意識を向け、自分自身が大切にしたい価値(考え)に基づいて行動できる行動的側面のことです。

この柔軟性を高めるために、ACTでは「ヘキサフレックス」と呼ばれる6つのコアプロセスに取り組みます。

6つのコアプロセスと日常での実践ポイント

この6つのプロセスがバランスよく機能することで、私たちは人生の主導権を取り戻し、思考や感情に振り回されにくくなります。

コアプロセスキャッチフレーズ実践の目的と具体的な行動ヒント
1. 脱フュージョン思考を観察する思考を現実や自分自身と同一視しない(認知的フュージョンを弱める)。
💡「私はダメだ」→「『私はダメだ』という思考が浮かんできた」と言い直す。
2. アクセプタンスオープンになる不快な感情や感覚をそのまま体験する(体験の回避を減らす)。
💡不安を感じたら、その「感情の形、色、手触り」などをじっくりと観察してみる。
3. 今、この瞬間との接触今、ここにいる過去の後悔や未来の心配から離れ、現在の体験に意識を向ける。
💡マインドフルネス瞑想や深呼吸を行い、体の感覚、周りの音などに注意を集中する。
4. 文脈としての自己純粋なる気づき自分の思考や感情を、一歩引いた俯瞰的な視点で観察する(「概念としての自己」にとらわれない)。
💡「私は○○である」という自己像と自分自身を区別し、変化しない「気づいている自分」を認識する。
5. 価値何が大切か知る自分にとって望む人生の方向を明確にする。
💡「誰にどんな人だったと言われたいか」「どんな生き方をしたいか」を言葉にする。
6. コミットされた行為必要なことを行う価値に基づいた目標を設定し、具体的な行動を続ける(機能しない行動を減らす)。
💡価値に沿って、SMART(具体的・有意義・現実的など)な小さな行動を決めて実行する。

自分でできるACT実践ステップ:セルフケアへの活用

ACTは、日常的なセルフケアとしても非常に有用です。専門家の指導がなくても、以下のステップで実践できます。

ステップ1:思考と感情を客観視する(脱フュージョン&アクセプタンス)

湧き上がった不安やイライラを、「思考」や「感情」としてノートやメモに書き出し、ラベリングしてみましょう。

  • 例: 「(出来事)会議で意見を言えなかった → (感情)不安、イライラ → (思考)『自分はいつも発言できないダメな人間だ』
  • ラベリング: 「これは『ダメな人間だ』という思考だな」と客観視することで、自分と思考の間に距離を置きます。

ステップ2:価値を再確認する(価値)

その思考や感情に振り回されず、「自分は本当はどうしたいのか」(価値)を再確認します。

  • 例: 「私は『チームに貢献する、誠実な人』でありたい」

ステップ3:小さな行動を決める(コミットされた行為)

再確認した価値に沿った小さな行動を設定し、すぐ実行します。不安があっても行動を優先します。

  • 例: 「明日、会議で挨拶の後に一言だけ今日の議題に関することを話す」「そのために10分だけ資料を読み込む」

ステップ4:今に意識を向ける(今、この瞬間との接触)

行動の前後に、深呼吸やマインドフルネスを取り入れ、過去や未来の思考から離れて「今ここ」の体験に意識を集中させます。


続けるためのヒントと注意点

ACTをセルフケアとして継続するために、以下の点に留意しましょう。

  1. 完璧を求めない: 不安や苦痛はゼロになりません。ネガティブな感情が湧いても「あるがまま」に受け入れる練習です。
  2. 習慣化する: 思考や感情を書き出す時間、マインドフルネスを行う時間をルーティンに組み込みましょう。
  3. 「できた行動」に着目: 行動を「失敗」ではなく「価値への小さな一歩」として捉え、できたことを認めます。

もし、セルフケアで不安や苦痛が軽減しない場合は、無理せず心療内科やカウンセリングなど専門家のサポートを受けることも大切です。

🔔 まとめ

ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)は、「不安と戦う」のではなく「受け入れる」ことで、心のエネルギーを「価値ある人生の創造」に振り向けるための考え方と行動のスキルです。

思考や感情に振り回されずに、自分らしく、いきいきとした人生を送るために、ぜひACTの考え方を日々のセルフケアに取り入れてみてください。

ABOUT ME
さおちる
さおちる
ナース
はじめまして。 現役ナースで、公認心理師の「さおちる」です。 誰にも言えない「こころの不調」を、一人で抱えていませんか? 私は12年間、看護師としてたくさんの心と体に向き合ってきました。 その経験から確信していることがあります。 それは、精神科は「こわい場所」ではなく「成長が詰まった環境」だということ。 そして、お薬を飲む前に「カウンセリングで自分と向き合う時間」が、回復への大きな力になるということです。 こころの不調は、誰にでも起こりうること。特別なことではありません。 このサイトでは、看護師と公認心理師、2つの視点から、あなたの「立ち直る力」を引き出すお手伝いをします。 認知行動療法をベースに、具体的な予防法やケアのヒントをお伝えしていきます。 もう一人で悩まないでください。 ここが、あなたの心を軽くする、最初のステップになることを願っています。
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